北海道ツーレポ(離別)
著作・製作 Hanajinさん  Hanajinさんってどんな人?



5時半に目が覚めた。

まず外の様子が気になる。
雨が降っているのではないかという気持ちで見るものだから、屋根が濡れているように見える。

たばこを吸いがてら、外に出てみる。
霧は思ったほどではなく、路面も乾いている。この分なら今日は大丈夫かもしれないと少し安堵する。
だが、雨の備えだけはしっかりして行かなくてはならないだろう。

 バイクのカバーを取り、ロックを外す。食事を済ませたらすぐに出発できるように荷物を積む。カッパを出しておく。


 朝食は7時。オショロコマの甘露煮を食べた。それと近くの牧場の牛乳。どちらも美味しかった。

 8時出発。出発前に写真を撮る。
宇都宮の人も釧路に向かうということであったが、ペースが違うので、別行動を取ることになった。
宮城の青年は帯広へ。

 まず宇都宮の人が出発。
ヘルパーの2人が大漁旗を振りながら、「行ってらっしゃい!」と大声で送り出す。
少し恥ずかしい気がしたが、私たちもその声に見送られてスロットルを開けた。


 昨日通った道を逆に辿り、黄金道路へ。
百人浜を反対方向から眺めながら走る。
黄金道路のトンネルでは今朝は10分待ちだった。その間、交通整理の人と話す。
トンネルは5キロ近くあるらしい。この次に来たときには開通しているだろうかなどと思った。

 フンベの滝で休憩。写真を撮る。遭難者供養碑が建っている。
 
 336号は広尾から山の中の道になる。
美成というところを過ぎると、右手に沢山の沼が現れる。その辺をナウマン国道と言うらしい。

忠類村という表示を読んで、最初は勘違いして「虫がたくさんいるんだろうか」などと思ったりした。漢字が違っていた。
この辺はナウマン象の化石が発見された所なのだろう。ナウマン温泉などという所もある。


 大樹町の山の中に入ると雨が降り始めた。
大きなパーキングにバイクを止めて、ササカワさんがカッパを着る。私は朝からカッパを着込んでいた。
 

 今日は釧路の市内を通らねばならない。
実は下調べの段階から『釧路の道はややこしそうだなあ、通るのはいやだなあ』と思っていた。

釧路では和商市場に行きたかった。勝手丼を食べてみたかった。
釧路の駅の海側にあることは分かっていたのだが、初めて行って迷わないだろうかと心配だった。
それほど地図を見ただけでややこしそうだったのである。


 駐車場にはちょうど大型のトラックが止まっていた。
トラックの運転手ならその辺のことも知っているだろうと思い、尋ねることにした。
運転手は親切にいろいろなことを教えてくれた。
「迷っているのを見かけたら止まって教えてやるよ」とまで言ってくれた。


 運転手の話を聞いて、和商市場に行くのは取りやめにした。
ササカワさんは釧路からさらに北向きに「摩周国道」を上り、摩周湖まで足を伸ばす予定だったので、
少しでも早く釧路湿原方面に抜けたかった。
 
 浦幌、上厚内、直別、音別・・・。ここはもう国道38号線だ。根室本線とつかず離れず道は釧路方面に延びている。


霧が水滴になってシールドを伝い、後ろに流れていく。晴れる様子は全くない。
むしろいよいよ霧が濃くなっていくようだ。

雨ではないので路面は湿っている程度だが、視界は50メートルくらいだろうか。
右側は海になっているはずだが、時折波が打ち寄せる様子が見えるだけで、雄大な海岸線などは望むべくもない。

対向車も皆、ライトを点けている。 どこからどこまで霧はこの大地を覆っているのか。

時速80キロくらいで何時間走っても霧から抜けられない。
五里霧中と言うが、五十里以上も霧に迷うようである。

 先の見通しが立たぬという点では、自分の人生に似ている。笑うしかない。

  釧路に入る前に一休みと思い、「しらぬか恋問」という道の駅で一服した。
宇都宮の人が私たちに気づく様子もなく、38号を釧路方面へ駆け抜けていく。
私たちは休み休み走ってきた。その度に宇都宮の人が横を走り抜ける。私たちが追い越す。
休むと彼が走り抜ける。これで3度目だった。もう釧路は近い。私たちが彼を追い越すことはないだろう。


  運転手に教わったとおり、「大楽毛(おたのしけ)」というところで左折。
マップルには「大楽毛」とあるが、実際は「大楽毛西」という信号だった。
そこから「まりも国道」ということになっている。国道240号だ。

行き先は阿寒湖。大楽毛で左折して2番目の右折路を行けば、
釧路市内を迂回して摩周国道と呼ばれる国道391号へ出るはずである。

 だが分からない。Uターンして大楽毛の交差点にあるスタンドで聞く。
「ほくれん」の所を右に曲がればいいと教えられる。

たしかにほくれんの集乳所みたいなものがあった。しかし右折路はない。
2回往復しても分からないので、新しくできた道をやけになって釧路市内へ進んだ。何とかなる。

 標識も何もない細い道をともかく市内に向かうだろうと見当をつけて走る。
これでいいのかという不安がこみ上げてきて、少し引き返してコンビニで道を聞く。

 いろいろと行く方法はあったようだが、地名が分からないし、
何本目の交差点をどっちに曲がって・・・、というのは絶対に覚えられない。
「一番分かりやすい道を教えてください」と頼んだ。

 ともかくまっすぐ行って、突き当たりを左に曲がって、2車線の道路をまっすぐに行って、
大きな橋を渡って、何番目かの信号を左に曲がって・・・。
 これが一番分かりやすい道だそうだった。


 どうやらこうやら道道113号に出た。
北海道じゅうの車が集まったのではないかと思うくらいいっぺんに車が増えた。

トラックはどんどん追い越しをかけてくる。怖い。鶴見橋という橋を渡り、愛国というところに出る。


 釧路は鳥取県からの開拓者が入植したところだそうで、鳥取という地名が残っている。
釧路市鳥取というと、変な感じがする。そんなことを考えながら地図を見る。

 また迷ったのである。

どこにも摩周国道などという表示はない。せめて391号とあればいいのだが、それもない。
これもあとから聞いた話だが、摩周国道というのは正式な名称ではないということである。
北海道で正式な名称として使われているのは「まりも国道」くらいなもので、あとは勝手に誰かがつけたものらしい。

 大きな交差点で立ち往生した。バス停でバイクを止め、ササカワさんと相談する。
ともかく左折してどこかで聞こうということになった。

 左折して100メートルくらいの所にカワサキのショップがあった。
これ幸いとバイクを止めるとちょうど犬の散歩をさせている人がいたので、
「摩周国道ってどう行けばいいんですか?」と尋ねた。「摩周国道?」と怪訝な顔をされた。「あぁ、391ね・・・。」
 ようやく地獄から逃れた気分だった。


国道391は快適な道だった。雨も止み、霧も少し晴れ、車も少ない。
 北海道の道は200番台の道の荒れようが目立った。300番台、400番台は良い道が多い。
道道はだいたい良い路面だった。1000番台という道道もあったが、それも路面は良かった。
2桁の国道はだいたい良く整備されているが、車が多いのが難点であった。
 

 達古武沼展望台、細岡展望台と釧路湿原を見渡すことが出来るような場所へ曲がる道がいくつかあった。
しかし今日はどこも展望は利かないだろう。

 すぐに峠にかかる。まだ路面が濡れている。慎重に飛ばす。
峠を下ったところが塘路。今日の宿泊地である。

 ここでササカワさんとお別れ。ササカワさんは摩周湖ユースに泊まる。

 四辻の店の前の駐車場でしばしの会話と記念写真を撮る。
出会ってから3日間。本当に心を開いて裸のつきあいができた。
女房の状況も話した。

お互いにまたいつか連絡を取り合って、北海道を一緒に走ろうと約束して握手をした時、涙ぐみそうになった。
ササカワさんは391号を北上していった。 
  

ここからは一人である。午後2時半。ユースに入るには早い。

 引き返して細岡展望台に行くことにした。もう一度峠を越える。
峠を越えきった所から右折。道はだんだん細くなり、舗装がはげてダートになってくる。
慎重に路面を選びながら、ようやく展望台の入口に着いた。


 釧路湿原やその向こうに聳えるはずの山々は全く見えない。とりあえずここに来たという証拠写真は撮っておいた。


 再び峠を越えようとすると、小雨が降り始めた。ユースへと急ぐ。
塘路駅へ一旦行き、引き返して地図で確認しようとしていると、手を振りながらハーレーが横切った。
ユースの方角から坂道を下りてきた。
もしかしたら同じユースに泊まるのかもしれないと思って、手を振り返した。
 新たな出会いだった。


 ユースに行くと、4時からチェックインだということで、30分ほど時間を潰さなければならなかった。
さっきのハーレー乗りも時間潰しでどこかに行ったのだろうと思った。 
しかし今日はもうバイクには乗りたくない。歩いて塘路湖に行ってみようと思った。

カメラだけを持ち、塘路駅前を通り、塘路湖へ向かう。
350メートルと地図には書いている。駅はこぢんまりとして綺麗で、この場所にふさわしい造りである。
周囲に何件かカフェのようなものや売店などがある。

 白樺の並木道を通り、一旦国道391を横切ると塘路湖への降り口がある。
人の家の庭先のような所を通り、湖畔に下りる。
湖面を眺めていると、トラックがやってきた。つないであった舟の何かの寸法を測っている。

 舟から下りてきた年輩の人に話しかけて、いろいろと聞いた。
公魚(わかさぎ)が主な漁獲物で、鯉や鮒なども獲れるという。冬は凍り付いて、スケートが出来る。
気温はマイナス20度以上になるということだった。

 夏の様子からは想像できなかった。



続く・・・