蒼穹(鹿児島一泊ツーリング・第二章 仲間達との再開)
著作・製作 Hanajinさん  Hanajinさんってどんな人?



照りつける太陽は容赦ない。
ジリジリとアスファルトを焦がし始めている。
これから先も熱気は地上遙か上まで大気を熱し続けるだろう。

サービスエリアに入る誘導路でスピードを落とすと熱気が衣服を貫いて肌を刺すようだ。
 おまけにサービスエリアは人の熱気が暑さを増幅させている。
昨日から夏休み。暑さの中で子供達の笑顔が清々しい。 
誰かの笑顔を見ることが出来ると期待してバイク置き場に進入する。
ドカティが一台。空気を切り裂くことを優先させたバイク。イタリアの情熱の結晶。
 仲間の顔は見えない。N氏と私は腹ごしらえ。
サンドイッチと牛乳で腹の虫を治める。

ここで福岡から未知のバイク乗りが合流するという。

さっきのドカはその人のバイクかもしれないと思い直す。しかし、ライダーは見えない。
 バイクの所に戻るとすぐ、BMが現れた。降りてすぐ、レストランの方へ歩いていく。
シャイなのか、ろくに会釈も交わせなかった。あとで話をしてみようと思う。
ようやくTAKAさんが現れた。颯爽としている。
この日のために苦労して仕上げたボルドール「とき号」は輝いている。
苦労話は知っている。それだけに「とき号」はなおさら誇らしげに佇んでいるように見える。
TAKAさんはこのボルドールを「最後の一台」になるまで大切にするだろうと思う。
バイクに命を与えられるのは人間だけだ。命は愛情の結晶だ。
TAKAさんの「とき号」を見つめる笑顔から愛情がこぼれ落ちている。 

N氏を紹介する。初対面だ。
しかし難しい挨拶は要らない。すぐにバイクの話になる。
もう何十年も前からの知己であるかのように。 

これから始まる旅への期待が話を弾ませる。  

さきほどのBM乗りが帰ってきた。
 「鹿児島ツーの方ですか?」BM乗りが聞いてきた。
やはりここから合流する人であるらしい。   

たしかVANさんの書き込みで二人のメンバーが加わることになっていたと記憶している。
BM乗りはUさんと名乗った。
福岡の方で、交通安全関係の仕事をしているということだった。
もう一人はやはりドカ乗りの人だということであった。
いま朝飯を食べているという。
不得要領というのか、TAKAさんも最終的にここに二人を紹介したTDKさんが来るのか来ないのかよく分からない。
私は私でmichiさんが来るのではないかと思っていた。
VANさんが来れば全ては明瞭に分かるのだが、VANさんの行方を聞くと、なんと待ち合わせの広川を通り過ぎてしまって宮原で待っているという。
これがVANさんの彷徨の始まりであったとは、この時は誰も知らなかった。

 時間が来た。宮原まで90`。私が先導を仰せつかった。

予定では一時間かけて走ることになっている。
時速100`で行けば余裕がある。それだけ休めることになる。
私のバイクが一番遅い。
120`以上出すと、振動が激しくて耐えきれない。 
本線に入り、スロットルを捻る。130`。ステップに乗せた足が浮き上がる。
振動を堪えながら更に少し開ける。140`。振動が少し収まる。
エンジンと車体が共鳴するように上機嫌に歌を歌う。ご機嫌だ。 

一度も走行車線に戻らぬまま、宮原に着いた。 

VANさんの笑顔が見える。
VANさんとは別のトピで知り合った。同じバイクに乗っている。VANさんは1200だが。
 初めて会ったのは他の仲間と同じ。3月の末に初めてオフ会をしたときだ。
それ以来、どういう訳かVANさんと一番よく走っている。
先週も豪雨の中を二人で走った。

義理堅い人で、体中の痛みを堪えながら神戸から来たライダーを大観望で私と一緒に出迎えたのだ。
 ふと見ると、今日は腰にコルセットをしている。

  先頭交代。次は吉松。
ここで福岡、宮崎組が合流の予定。さすらいの道雪氏も昨日から下道を走って、どこかで泊まり吉松に来ているという。
 人生は旅だ、とは陳腐な比喩であるが、人間の本性として彷徨への強い憧憬があることは確かだ。
ふらりと日帰りのつもりで出たツーリング。
夕暮れになり、その夕焼けの向こうを見てみたいと帰心を忘れる。
今のように固定された職業の中で縛り付けられることが比較的少なかった時代には、その傾向は強かったようで、「神隠し」などと言われるものも案外その手のものだったのかもしれない。 
道雪さんからは旅が濃く匂ってくる。
道雪さんが「神隠し」会わなければいいがと思っているのは私だけであろうか。

 吉松までは70`余り。40分で着くはずだ。
先頭を行くVANさんは器用に走る。懸命に追いかける。 いくつもの隧道を潜る。
人吉までの高速道路を造った人々の苦労が偲ばれる。
アスファルトの輻射熱に晒された体に心地よい風が吹き抜ける。 

長い隧道に入った。
凄まじい熱気が襲ってきた。
エンジンが壊れたのではないかと一瞬思った。違う。前からの熱気だ。
車が炎上しているのか。流れはスムーズだから、そんなはずはない。息を時々止めながら走る。
ようやくあと1`の標示が見えた。助かったと思った。
 隧道の暑さより炎天下の暑さの方が不安がない。太陽の所為だと分かっているから。


  吉松では全員が揃った。私、N氏、TAKAさん、VANさん、道雪さん、ドカ乗りのKR氏、BMのU氏、akutaさん、sugakiさん、そしてTDK氏。
バイクのメーカーも世界を網羅している。

バイク乗りは乗らない人と比較すると気ままで勝手なやつが多い、と思うのだが間違っているかな?
血液型はB型が多い。(なんてのは嘘)私がB型だからそう言っているだけなのだが・・。
少なくとも個性を殺さないで生きようとしている連中が多いことは確かだ。
そして孤独を愛する人間の割合が多いことも・・。

しかし時にはこうやってみんなと走るのはいい。
 ここで少し問題が起こった。ガス欠。
誰とは言わないが、先行して一度高速から降り、ガスを入れてまた復帰するという。
その他のメンバーは少し余計に休憩した。

 しかし、休憩するより走った方が少しでも涼しい。
早々に出発することになった。ガス欠氏とは桜島で合流の予定。すぐだ。

 桜島に着くと、サービスエリアのバイク置き場でガス欠氏がサイドカバーを外そうとしている。
幸い前のインターを降りてすぐにスタンドがあったらしいが、また新たなトラブルか。
聞けばプラグを交換しているとのこと。あまりの燃費の悪さに驚いて何とかしようとしているらしい。
ガス欠氏は他のメンバーに気を遣いながら汗だくになっていた。

ここまで来れば第一の目的地はすぐだ。
ようやくプラグ交換を終えたガス欠氏は今回の目的である「meiさん、大型免許取得祝いツーリング」の相手であるmeiさんに電話をした。
もう着いて待っているらしい。

遙々来たという思いはない。
高速道路は情緒を消す作用を走る者にもたらすようだ。
桜島パーキングエリアといっても桜島の姿は見えない。
ただ南国に来たという印として陽光は少し北より熱い。 もうすぐ初めての人と会う。どんな人だろうと想像してみる。


 meiさんは高速の高架の下で待っていた。
赤いジャケット。

そんなところで待つ人はmeiさんしかいないから、すぐに知れた。
10台のバイクが高架の下に滑り込む。
緊張感と戸惑いの表情を綯い交ぜにして、meiさんは我々を迎えた。

ヘルメットを脱ぐ間もなくTAKAさんが近づく。
その後を私が続く。
みなそれぞれに自己紹介を続ける。念願の人に会うことが出来た喜びを全身で表しながら。



 meiさんはひまわりのような人だ。
生まれは鹿児島ではないと聞いているが、まるで鹿児島のために生まれてきたような向日性の笑顔。
でも少し緊張している。

 むくつけき男達(紅一点のsugakiさんを除いて)の来襲に戸惑いの表情と少しばかりの羞恥の色を浮かべながら、
それでも迎える側の笑顔は絶やさない。

勝手に口実を作って押し掛けた申し訳なさが心の隅にないでもない。
しかし出会いは作るものである。

離れていればなおさら一生知り合うことのない可能性の高い者達が、なぜかこうやって高架の下で巡り会っている。

不思議な光景だ。

デジャビューという言葉がある。
既に見たことのある、という意味だ。

「既視感」と訳されている。高架下の光景は私に既視感をもたらした。
どこかで見たような懐かしい光景。

 前世から約束されていたかのような邂逅。
ふとしたことで巡り会い、離れられない関係になる。
つれ合いなどはその最たるものだ。

この仲間達とも浅からぬ因縁があるのだろう。
それを素直に受け入れていこう。


続く・・・