北海道ツーレポ(おめでたき人の旅立ち) あとは勢いで仕事を乗り越えて、旅に出るだけである。 テンションが徐々に上がってくるのが分かる。 青い空と海、まっすぐな道。 広大な大地。 そんなイメージが絶えず頭の中に浮かぶ。 暇を見てはネットを開き、地図で宿の場所を確認したり、経路を確かめプリントアウトしたり。 出発も間近になった23日。 出発の可否を左右する出来事が起こった。 女房の病気が分かったのである。 これを書いてる現在(8月9日)、病名が分かって治療の方針も決まったから このレポートでも正直にそのことを書いて良いのではないかと思う。 このような形で書くことの賛否はいろいろだろうが、差し支えない部分で書かせていただく。 旅行を取りやめようかと何度も思った。 その日の診察では、重大な病気の可能性があり、 再度27日に検査をして、正確な病名を把握するという病院の方針であった。 もちろん、今すぐに生死に関わることはないから検査を来週に回したのだろうが、 旅を取りやめて、ついていてやりたいと思った。 そうすることが一番なのではないかと思った。 「旅行、止めようか」 と何度も女房に申し出た。 だが女房は「せっかく全部準備が終わったのだから、行ってくればいいよ」と言う。 「あんたがおってもおらんでも私の病気はどうなるもんでもないけね」。 7/25(日) おめでたき人の旅立ちである。 普通は女房が行って来いといっても行かないだろう。 そういう思いがこの旅の間、ずっとつきまとっていた。 5時半起床。もう外は明るい。 私が起きてごそごそやっていると、女房も目が覚める。 荷物は昨日全て積み込んでおいた。 身支度を整え、出発するだけである。 気丈な女房だが、私が一人で旅立つことに不安を抱いていないはずはない。 しかし、そんな表情は見せずに、笑顔で見送ってくれる。ありがたいとつくづく思った。 エンジンをかけるのは憚られるので、またがったまま坂道を下る。 「行ってきます」小さな声で女房に言ってから。 今日はまず中国自動車道・舞鶴自動車道を600キロ余走り、 下道で三方五湖を巡って敦賀に午後7時ごろまでに敦賀港に到着という計画を立てていた。 何しろフェリーの出発は夜中の1時半である。 1時間前に着けばいいのだが、夜は走りたくない。 時間潰しの本は持っている。それでも余る時間を三方五湖で潰そうと思ったのである。 中国自動車道を行くか、山陽道を行くか迷ったが、結果的には中国道で良かったと感じている。 何しろ車が少ない。アップダウンやカーブはあるが、快適に飛ばせる。 岡山県までは快調に飛ばした。 所々で休みながら行く。暑くなると思っていたが、予想に反して曇り空が続く。 メッシュで走るのにちょうど良い気温である。 二宮というPAで休み、そこを出たとたんに雷が鳴り始めた。第一の試練である。 パーキングを出てからすぐの突然の出来事だった。 非常電話の設置されている路肩が広くなっている。 そこにバイクを止めて、とりあえずウェストバッグが濡れないようにビニール袋に入れ、サイドバッグにしまう。 次にシートバッグとタンクバッグにカバーを掛ける。 その間に取り返しがつかないくらい、ずぶ濡れになった。 カッパを着るのは諦めた。晴れれば乾くだろうと思って。 少し待つと雨足が弱まった。再度出発。 しかしまた今まで以上の大粒の雨と雷。路面が見えない。 路肩にバイクを寄せ、木の枝の下に入って止むのを待つ。 気持ちを落ち着かせるために煙草を出すが、もう濡れている。 何とか火を着け、やけになって吸い込む。 横を通り過ぎる車が羨ましかった。 だが、こういう経験は車では出来ないのだと思うことにした。 開き直ればどういう状況でも楽しめる。命に関わるようなことは別だが。 『もしかしたらこの雲の向こうは晴れているのでは?』と思いついたのは15分も経ったころだった。 まだかなりの降り様だったが、思い切って出発した。 案の定だった。3分も走ると雨は止んだ。 勝央SAで振り返ると、雨雲は私が休んでいた所だけに止まっていた。 私は雷雲の真ん中で留まっていたのである。 靴の中に溜まった水を出し、靴下を絞る。それ以外は走って乾かそうと思った。 そのころから気温が上がってきたので、濡れた服を乾かすのは気持ちよかった。 気化熱で涼しい。 初めて走る道。未知の所を走る喜び。徐々に解放される心。 重たいものを残してきてはいるが、おめでたき人は旅の心を取り戻しつつあった。 吉川JCTで舞鶴道へ。 この道は路面がきれいで走りやすい。ただ一車線の所が多く、分離帯のない対向車線になるので、怖い。 今舞鶴自動車道は小浜西まで延びている。いずれは敦賀で北陸道につながるようだ。 終点の小浜西で下りて、国道27号を走る。 下りたとたんまた雨が降り始めた。もう濡らしたくないので、カッパを着る。 暑い上に大渋滞だった。カッパを着ていると、ハーレーに乗った人たちが追い越していく。 この渋滞は海水浴帰りの車だということがあとで分かった。 小浜から海際の道に入り、三方五湖へ。雨が止んだので、カッパを脱ぐ。 三方五湖の周囲には梅の木がたくさんある。所々に梅干しの直売場がある。 またレストランやドライブインのようなものも所々にある。レインボーラインという有料道路に入る。 料金徴収員に聞くと右側が日本海、左側が湖だと説明してくれる。 「こちらが海水でこちらが淡水ですか?」と私は聞いた。 料金徴収員は「そうですよ」と当たり前のように答えた。 海と湖だから当然のことである。崖一つで海と湖が限られている。こんな風景は初めて見た。 展望駐車場でしばらく時間調整をする。 今朝は早かったので、眠気を催してきた。 高速のパーキングでも一度、30分ほど横になったのだが、眠れはしなかった。 訪れる人もなく静かだ。蝉の声だけが周囲の静けさを破る。 遙々来たものだという感慨が湧いてくる。 続く・・・ |