北海道ツーレポ(友情)
著作・製作 Hanajinさん  Hanajinさんってどんな人?



三方五湖から敦賀市内へ。
道路の標示がなく、道なりに走っていると繁華な所に出た。

どこかに出れば標識が出ているだろうと思いながらも、渋滞に嫌気がさす。

 その道の突き当たりが8号線のバイパスだった。
左折すれば敦賀新港の三叉路があるはずである。

 トンネルを抜けると敦賀新港の入口だった。
7時頃到着。辺りは薄暗くなり始めている。

バイクを止めるところを探していると、ふとCBが止まっているのが目に入った。
その横へバイクを滑り込ませる。

 ヘルメットを脱いでいると、そのバイクの持ち主が帰ってきた。
CB400だったので、若い人が持ち主かなと思っていたが、私と同年輩の人だった。
 その人と数日間行動を共にすることになるとは、その時は考えもしなかった。


 一目見ただけで親しみを覚える、そんな人が世の中には時々いる。
警戒心を抱かせない人、会ったとたんに、こちらから親しくして欲しいと自然に願い始めるような人。
それはこちらが心を開いている時だからかもしれないが。

 バイク好きというだけで親しくなれることは多い。
バイクに乗っているということが分かったとたんにある程度までは話せる関係になるが、
それ以上になるためには、時間が必要な場合が多い。
 だが、その人とはすぐに親しくなれた。ササカワさんという名前の人だった。

 ササカワさんは近くに住んでいる20年来の友だちを訪ねるといってヘルメットを被った。
あとでまた会いましょうといって見送った。

 そのあとレストランへ。
今日は走るばかりで、何も食べていない。
水分だけは気を付けて摂ったつもりだが、空腹感はあまり強くなかった。

 いろいろと海産物を主体とした定食のようなものはあったが、結局ラーメンと餃子を頼み、生ビールを飲む。

 私は全くグルメではない。
北海道でも花咲港で蟹を一匹食べただけ。
あとは船長の家でいろいろと食べたが、いわゆる北海道名産というのは口にしていない。
そうだ、夕張メロンとハスカップサイダーは口に入れた。

 食べた後、乗船手続きをする。
時間潰しは京極夏彦の「狂骨の夢」を読むつもりだった。
まだ時刻は8時過ぎ。出航まで5時間以上ある。

待合所の椅子で靴を脱ぎ、靴下を脱ぎ、楽な姿勢で本を読み始める。
まだ人も少ない。横になって本を読む。じきに眠っていた。

 ふと気づくと30分くらい時間が経っていた。
起きあがると向こうにササカワさんが座っているのが見える。
 
 横に行っていろいろと話をした。
ササカワさんは芦原温泉のある町から来たということだった。

私も2年前、福井から永平寺、東尋坊と行ったことを話す。
その時に芦原温泉という地名を見たことを話す。
見知らぬ人と初対面の時は、そこに行った経験とか、知り合いがいるとか、そういうことをきっかけに話をすることが多い。
何らかのつながりがあることで、より近く感じて貰いたいと願う心理の表れだろう。

 しかしササカワさんはそんな説明は不要な人だった。


 54歳で突然バイクに乗ろうと思い始めたという。
昨年のことであった。それまではゴルフ三昧であったらしい。

建築業を自営しているが、長男があとを継いで、そちらに任せられるようになってきた。
ちょうど仕事の切りがついたので、北海道に行くことを思いついたらしい。

私と会ったときは、当日のチケットを買うために早めに来たところだったようだ。

 ゴルフ仲間からはその年になって、バイクに目覚めたことを冷やかされているらしいが、
一度はバイクに乗ってみたいという願いをようやく叶えることが出来た。

 そんなことをぽつぽつと話してくれる。

そして一等船室を貸しきりで取ってあるから、来ませんかと誘ってくれた。私は2等寝台。言葉に甘えることにした。
 


7/26(月)

 長い待ち時間もササカワさんと話していると、早く過ぎたような気がする。
12時半ごろにバイクと一緒に乗り込み、船室に荷物を置く。

早速売店で生ビールを買い、2人で飲む。
そろそろ眠くなってくるころ、乗り込む前に少し話した名古屋のライダーが姿を現したので、また話が弾む。
3時半まであれこれと話題は尽きなかった。

 まだ先は長い。
何しろ今夜の8時半までこの船で過ごさなければならない。

 一眠りすることにした。


 8時半ごろには目が覚めた。
1等客室は外の音が入らない。波も穏やかで、短時間だったがぐっすり眠れた。

ササカワさんも目が覚めていて、2人で風呂に行く。
結局昨夜は入りそびれて汚れたまま眠ってしまった。

風呂は写真で見たよりもずうっと狭く、5〜6人で満員という広さだ。
貴重な水を使うのだから仕方がないだろう。
昨日一日走り通した疲れが少し取れる。

風呂から上がって朝食バイキングに行った。
今までいろいろなフェリーに乗ったが、このフェリーの食事は及第点が付けられると思った。高いのは高いけど。

 食事を終えてあと10時間、どうやって過ごすか。
一人だったら本でも読むしかないのだが、船室にはテレビがあり、衛星放送で映画を見たり、
大リーグの試合を見たり、ビールを買ってきて飲んだり、うつらうつらしたり・・・。


 ササカワさんは1週間の日程でやってきた。
漠然と小樽や富良野や、その辺を走ろうと思っていたらしい。

宿も予約していなかった。
その日その日で行き当たりばったりということだったらしい。

「船で誰かに知り合うだろうから、その人のあとをついて回ろうかと思ってるんですよ」と最初に言っていた。
「それでは最初は道東に行きませんか?」と私は誘った。

都会に行くのはツアーでもいいけど、バイクで走るなら都会は避けた方がいいでしょうと私は言った。

 船から今夜泊まる予定のウトナイ湖ユースにササカワさんの分の予約を入れた。
次の日も私と一緒にエリモ岬ユースに泊まるということなので、予約を入れてあげた。

 携帯は通じない。沖合90キロに船はある。
テレカを買って、家にも連絡を入れ、女房と話す。特に体調に変化はないという。

 8時半、ようやくフェリーが苫小牧東港に入る。
待っていてくれているはずの道雪さんに電話。天気を聞く。
曇っているが雨は降っていない模様。少し安心する。



初めてバイクで北海道の地を踏む。
それほど喜びは湧き上がってはこないが、これから9泊10日の旅の始まりではある。


 久しぶりに見る道雪さんは少しスマートになっていた。
1年以上会っていない。

私が北海道に行くということをトピで表明すると、久しぶりに書き込みがあった。
ちょうど彼もその時期に北海道にいるから、苫小牧で出迎えましょうと言ってくれた。

もう何度か北海道を経験している道雪さんの申し出は有り難かった。
 彼は7月の初旬から陸路で青森まで北上し、北海道に渡る計画だということだった。


 道雪さんは耶馬渓の最初のツーのメンバーだ。
あちこちと一緒に行ったが、こうやって一緒に走るのは何年ぶりだろう。
走るといってもウトナイ湖ユースまでのほんの20数キロなのだが。


 苫小牧東港から国道235を苫小牧に向けて走る。
東港は実は厚真町というところにある。
町からはかなり離れている。周囲にはスタンドもコンビニも何もない。

 235号と並行して自動車道が走っている。無料だそうだ。
あとから聞いた話だが、北海道の高速には無料の所がたくさんあるということである。
きちんとつながって完成するまでは無料で走れるという。九州でそんなところがあるだろうかと考えた。

 235に出てすぐに稲光が見え始めた。
急いで行かなければ、昨日の二の舞になると思ったとたん、雨は大粒になった。
路肩にバイクを止め、カッパを着る。
再び出発。どうしてこんなに最初から雨に祟られるのだろうとうんざりしながら走る。
ササカワさんも懸命にあとに続く。


 北海道の大きな市と市を結ぶ国道は路面がとても荒れている。

北海道のアスファルトは柔らかいらしい。
後にどこの駐車場に止めてもスタンドの痕がくっきりと刻まれたのを見て、なるほどと思った。

長時間放っておくとバイクが倒れることもあるという。空き缶を潰したのを一つ持っておくと良い。

 雨は土砂降りになってきた。
車はどんどん多くなる。進む方向の路面には轍がくっきり見える。そこに嵌るとハンドルを取られる。

 怖い思いをしながら知らない町を走る。
とても一人では辿り着けなかっただろう。とても分かりにくいところにウトナイ湖ユースはあった。

国道からユースまでの道の途中からはダートになっている。
バイクはすっかり汚れてしまっていた。
たった20数キロ走っただけなのに、昨日の700キロと同じくらいの疲労感を覚えながらカッパを脱ぐ。


 ウトナイ湖ユースは公営の古いユースである。
到着し受付を済ます。

素泊まり1480円。安さに驚いた。
そこで北海道のユースを5つ回ってスタンプを貰うと、
北海道産じゃがいもを貰えるというキャンペーンをやっているという説明があって、
スタンプを押す紙を渡された。

疲れ切っている私はいいかげんに受け流しながら、早く休みたいと思う。


 10時を過ぎていた。ともかくビールを1本だけ飲ませてもらう。
3人で乾杯しながら、ユースの管理人と話す。

管理人はすっかり出来上がっている。先客の女の人と飲んでいたらしい。
翌日分かったのだが、その女性は子供のゴルフ選手権のためにここに泊まっていたらしい。
朝、子供を乗せて出発するのに行き合った。
それにしてもいつから飲んでいるのだろうというほど酔っぱらって、私たちが寝てもまだその声が響いてきた。

 今日の疲れは今日のうちに取っておかねばならない。
一部屋に8つ並んだベッドの一つに体を潜り込ませた。今日も風呂に入らなかった。

 明日からが本当の北海道ツーリングの始まりである。えりもの空が呼んでいる。



続く・・・